メッセージ

 

ラケーシュ・チョウラシア 来日公演企画にあたって

ラビットレコーズ 安藤真也・原口順

「なぜインド古典音楽を始めたんですか?」と質問されることがよくある。

その度に、始めるに至った経緯の説明と共に、「どうしようもなくこの音楽の魅力に引き込まれてしまったからです」と伝えたりしているのだが、この「どうしようもなく引き込まれた」理由を言葉にできずに探し続けていた。(本当は理由なんで必要ない!という考えではあるのだが。)

演奏を観客の前で一種の「パフォーマンス」として行う立場になると、付きまとうのは、音楽の純粋さへの葛藤と、商業とメディア支配の世の中とのバランスのとり方だ。

しかしそんな中で、インド古典音楽の演奏で何年かツアーを続け、様々な場所で様々な人々と出会い別れを繰り返すうち、ようやく一つの答えが見え始めてきた。

インド古典音楽は、単なるエンターテインメントではなく、我々の内面奥深くの琴線に触れ、潤し、感性と知を豊かにさせ、精神性を高めてくれる、純粋芸術なのだ。

純粋芸術とは、真の幸せに近づく為にきっかけを見出す方法の一つとして存在し、それは人間に必要なものである。その中でも、インド古典音楽は、師や先人からの伝統を大切に継承しながらも譜面に形として残さず、壮大な音楽理論の裏付けに基づくルールの中で即興で演奏をつくりあげていくという特長により、悠久から積み重ねられてきたものと、今という瞬間に新しく生まれるものとが融合する素晴らしさがある。そして奏者同士は勿論その場の全てと「調和」し合うことにより、音楽が最も美しい姿として現れ得る。

この「調和」が全ての鍵だ。

環境も思想も性格もそれぞれ違う人々が、演奏の最中、その瞬間は、皆が調和し美しいハーモニーをつくっている。

様々な垣根を越えて調和しあえる世界が、この音楽にはある。本当の世界平和 Love&Peaceへの道すじではないか。それこそが、インド古典音楽の最大の魅力であり、私達が惹かれた理由なのかもしれない。

 

そんな思いを現代の日本で多くの人に届けたくて、初め2018年にこの企画を立ち上げた。

私達の思いに賛同し、素晴らしい演奏を届けてくれる現在のインド古典音楽界トップの奏者であるラケーシュ・チョウラシア氏を本場インドから招き、実現の運びとなったことを本当に嬉しく思う。

どうか皆さん、最高に美しい瞬間を会場でご一緒に、そこに息づく音楽の感触を味わいに、ぜひお越しください。

                      (2019年公演開催にあたり記す)